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東京地方裁判所 平成10年(モ)2123号 決定

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  申立てに係る文書の表示、文書の趣旨、文書の所持者、証すべき事実及び文書提出義務の原因

別紙〈略〉のとおり(以下、本件申立てに係る各文書を「本件各文書」という。)

二  当裁判所の判断

1  本件申立事件の本案事件は、カリクレイン生成阻害能測定法に関する特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という。)を有する申立人(原告)が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液「トービシ」(以下「被告抽出液」という。)につき薬事法に基づく輸入承認を受けて輸入し、被告抽出液を有効成分とする製剤「ナブトピン注」(以下「被告製剤」という。)につき薬事法に基づく製造承認を受けて製造し、販売しようとしている被申立人(被告)に対し、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びそれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン生成阻害能の試験方法として知られている唯一の方法である本件発明と同一の試験方法を、被告抽出液及び被告製剤の品質規格の検定のために実施しているはずであるとして、本件特許権に基づき右試験方法の使用差止め等を求める事案であり、本件申立ては、被申立人が実施する前記試験方法の内容を証する証拠として、右試験方法が記載されている本件各文書の提出命令を求めるものである。

これに対し、被申立人は、本案事件において、被申立人が実施し、本件各文書に記載されている被告抽出液及び被告製剤の品質規格の検定のための試験方法は、本件発明の方法とは異なるカリクレイン生成阻害能の試験方法である旨主張し、本件申立てに対しては、被申立人が実施している右試験方法は一般に知られていない新規な方法であるから、本件各文書には被申立人の技術又は職業上の秘密に該当する事項が記載されており、民事訴訟法二二〇条四号ロ、一九七条一項三号によって提出義務を負わない旨主張している。

2  そこで、判断するに、まず、本件各文書のうち、被告抽出液及び被告製剤のカリクレイン生成阻害能の試験方法(以下「被告方法」という。)が記載された部分以外の部分は、本件申立ての「証すべき事実」に関係する記載部分ではないから、証拠としての必要性がない。

次に、被告方法が記載された部分について、一件記録のほか、民事訴訟法二二三条三項により被申立人から提示を受けた本件各文書の記載内容に基づいて判断するに、本件各文書に記載された被告方法は、特許として公開されている本件発明の方法とは異なるものであると認められる上、被申立人が被告方法は一般に知られていない旨主張し、申立人がワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びそれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン生成阻害能の試験方法としては本件発明の方法以外の方法は知られていない旨主張していることに照らせば、被告方法は公然と知られていないカリクレイン生成阻害能の試験方法であると認められ、また、右試験方法は、被告抽出液及び被告製剤のようなカリクレイン生成阻害能を効用とする医薬品を製造、販売する上で不可欠の重要な技術的事項と認められるから、被告方法の内容は、製薬会社たる被申立人にとって保護に値する技術又は職業上の秘密に関する事項に該当するというべきである。したがって、被告は、本件各文書のうち、被告方法が記載された部分については、民事訴訟法二二〇条四号ロ、一九七条一項三号により提出義務を負わない。

以上によれば、本件申立てには理由がないので、主文のとおり決定する。

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